「紀州のドン・ファン」と呼ばれた和歌山県田辺市の資産家、野崎幸助さん(当時77)が2018年に急死した事件をめぐる裁判員裁判の判決が、和歌山地裁で12日午後に言い渡される。多量の覚醒剤を摂取させたとして殺人などの罪に問われた元妻、須藤早貴被告(28)側は起訴内容を否認し、一貫して無罪を主張。「そもそも殺人事件だったのか」とも訴えている。
野崎さんと須藤被告は知人の紹介で17年末に知り合い、18年2月に結婚。その約3カ月後の5月24日、野崎さんが自宅2階で死亡しているのが見つかった。21年5月に、須藤被告は起訴された。
争点は、「野崎さんは殺害されたのか」という事件性、「殺害されたのだとすれば、犯人は須藤被告なのか」という犯人性だ。
須藤被告と殺害を結びつける直接証拠はないが、検察側は、法廷での証言などを積み重ねることで「被告しか犯人になり得ない」と訴えてきた。
死亡推定時刻や専門家の証言をもとに、野崎さんは亡くなった日の午後4時50分ごろから午後8時ごろの間に、覚醒剤を口から摂取したと指摘した。
その3時間余りの時間帯に、自宅には被告と野崎さんの2人しかいなかった▽離婚話があり、被告には殺害して遺産を手に入れる動機があった▽野崎さんの誤飲や自殺の可能性はない――などと指摘してきた。野崎さんは殺人事件の被害者であって、須藤被告が犯人だと訴えた。
そのうえで、野崎さんの死後に財産の一部を受け取って約5500万円を使っていることなどから、「強盗殺人と同程度の悪質な犯行」だとして、無期懲役を求刑した。
一方の弁護側。2人の関係は、須藤被告が野崎さんから毎月100万円を受け取る「契約」のような夫婦関係とする。離婚の危機はなく、野崎さんを殺害して遺産を得るという動機もなかったと反論する。
どうやって覚醒剤を摂取させたかについての検察側の立証はなく、野崎さんが覚醒剤を誤って飲んだ可能性もあるとした。弁護人は法廷で裁判員に向かって「『怪しい』と思わせる証拠がいくつか出てきただけ」と述べ、疑わしいだけでは有罪にできないという「刑事裁判のルール」に基づいて判断するよう呼びかけた。
裁判は9月の初公判から22回にわたって開かれ、これまでに検察側が申請した証人28人が証言した。